2020前期の研究内容について
前期の西沢研究室の研究についてまとめたいと思います。
今年は
・河川班 ・鉄道班 ・外交班 ・港湾班 ・災害班 ・宗教班 ・赤線班 ・道路班
・地形班の7班です。
【河川班】
高度な都市化が進む東京都23区内の中小河川を研究対象とし、都市河川と周辺都市の関係性についての研究である。
近年、日本各地でゲリラ豪雨などの豪雨が深刻化しているなか、特に都市部では市街化が進み雨水を吸収できず、都市型水害という都市特有の水害が起きている。建ち並ぶ高層ビルはその大きな表面積から多くの雨水を都市に集め、タワーマンションでは生活排水などの下水が多く発生し、それらは都市河川に流れ込む。現在の都市河川計画では、こういった高度な都市化による河川への流出を考慮されていない。そこで、250mメッシュを23区の範囲で作成し1メッシュにおける都市河川と周辺都市についてより詳しく見ていく。都市における雨水集水率、過去の氾濫経歴、河川への下水道流出plotなどのデータを重ね合わせ、23区内で最も雨水が集まるメッシュを特定し、これからさらに深刻化していくであろう豪雨に対し、どう都市化していくべきであるかを模索することを目的としている。
【鉄道班】
東京23区内の鉄道が所属する街区(以下、鉄道街区とする)に着目した研究です。都市における近代化の形成過程において、鉄道が市街地に与えてきた影響を調査しています。
西沢研究室では、これまでも鉄道に関する研究が行われており、鉄道集中領域(高密度な鉄道網の形成による鉄道が密集した領域)や廃駅街区(かつて駅が存在した街区)など、東京圏における高密度かつ急速な市街化に伴う影響分析がされてきました。
これまでの鉄道の特性に焦点を当ててきた特徴的な街区の研究に対し、今年度は都市基盤である街区を軸として研究を進めています。2000弱という多くの街区を扱うことにより、大小様々なスケール(建築設計対応~都市計画対応)での影響が観察され、鉄道街区の全体像が徐々に掴めてきました。例えば、鉄道沿いに道路を敷くことで影響の無害化を試みる都市計画レベルの対応から、住空間や建築計画・建築設計レベルで影響が現れているようなものが見られます。これらの空間は近年でも形態の進化を見せることなく、場当たり的な空地開発が続いています。
これまでの鉄道街区の事例を研究することで、人間と鉄道が共存できるような新たな設計手法の提案を目指しています。
【外交班】
日本の中で首都東京にしか存在しない機能「外交施設」についての研究です。
本研究では外交施設を大使館や領事館、国連等の国際機関、米軍施設等の法律で不可侵とされていたり、日本人の立入制限が定められている施設と定義しています。また、外交施設はクラスターを形成する傾向にあり、そのクラスターを「外交施設集積」と定義しています。この外交施設集積を研究対象とし、外交施設集積とその周辺の街との関係で何が起きているのかを探っています。
前期のゼミ活動では、集積と街の関係として、外国人居住率が高いこと、外国文化施設(外国料理店、インターナショナルスクールなど)が存在すること、建物の閉鎖性が高いことを明らかにしました。また、外交施設と街の関係として、緑地が多いこと、外交施設の閉鎖性が高いことを明らかにしました。
これらの結果を踏まえ、後期では閉鎖している街へ外国文化が浸透するような建築を目指します。
【港湾班】
本研究では東京港・川崎港・横浜港で構成される京浜港の明治以降(近代開発が行われるようになる境目)に埋め立てられた領域を対象範囲とする。近世都市から近代都市へと変化する時、軽工業から重工業へと変化し、その重工業の発展のために港湾が開発されるようになった。そして近代都市に取って代わる次の都市(仮に脱近代都市とする)に変化した時、その変化を最初に受けるであろう港湾にはどのような変化が起きるのかを解明する。
前期では地理院地図を用いて、実際に港湾にどのような変化が起きているのかを明らかにしていった。変化として挙げられたのは用途の変化と貨物線の廃線が大きくある。近代港湾では工場・物流施設・燃料施設・発電所(化石燃料)が京浜港の大部分を占めていたが、脱近代港湾では近代港湾の用途も残しつつ、リサイクル施設や清掃工場などの環境保全施設や発電所(再生可能エネルギー)や市街地などに変化していき、多種類の用途で構成されているのが分かった。それに加え、舟運や貨物での運送から自動車に変わったために貨物線が廃線されることも見られた。後期では脱近代港湾への変化の中で市街地への変化に着目し、その変化として実空間に起こることを解明していき、理想的な市街地の提案を目指す。
【災害班】
河川水害に対する近代都市の実態と対策を研究しています。研究していくと河川水害というのは自然災害だけではなく人災でもあること、特に都市計画・建築設計の役割が強いことがわかってきます。
研究対象は荒川の東京都内流域で、日本で被害が最も大きいと考えられる部分です。荒川氾濫時597町丁目(図1)が浸水深さ3m(深い場所では7m)を超えます。面積にして122.947.767m²です。この浸水区域は地形の起伏があるところが少なく、氾濫時避難場所となる高所が建築しかない状況です。そのような状況にある首都東京で都市計画や建築設計は災害時を想定して行われていません。
また、現在のハザードマップは被害想定こそ正確なものの広域すぎるため、詳細な危険の検証が行われていません。危険の詳細化をすることもこの研究の目的になります。
前期はまず、現在の都市にどれだけ逃げることのできる場所(避難可能面積)がどのように分布しどれくらいあるのか、どのような建築に多いのかを地図化しプロット(図2)することで現状把握をしました。後期からは避難時間や避難範囲、舗装状況などさらに詳細な危険を抽出し、浸水地区における建築のあり方を模索しようと思います。
【宗教班】
東京23区内に所在するキリスト教会を軸とした、「宗教集中領域」に関する研究です。ここでは、キリスト教会、仏教寺院、神社が隣接街区内に集中した領域を「宗教集中領域」と呼んでいます。このように複数の宗教施設が集中して立地することは、他の近代都市においてほとんど見られない稀な現象です。宗教集中領域には様々な発生要因が考えられますが、明治期から終戦にかけて、日本政府による宗教の政治的利用があったことが、背景の1つとして挙げられます。宗教集中領域が増加する直前に、「三教会同」や「全国教化運動」といった宗教政府間の談合があったことも、この根拠として挙げられます。
前期の後半では、この宗教集中領域と公共空間との関係に着目しました。戦時下において 宗教施設は、政府の出先機関として機能していた面もあり、現代以上に「地域拠点」としての役割を持っていたと考えられます。そのため周辺には、学校や警察署、公園などの公共施設が多く見られます。これらは、宗教集中領域の持つ都市への良い影響であり、宗教施設が再び地域と関係を築くための活路でもあります。後期では、宗教施設がより地域の拠点となるような、設計手法の提案を目指します。
【赤線班】
本研究では、東京において戦後のどさくさに紛れて発生し1946年から1958年の12年という短期間にのみ存在した「赤線地帯」を研究対象とし、現代に残る旧赤線地帯の影響を解明する。「赤線地帯」とは、終戦直後に日本政府の要請によって作られた特殊慰安施設協会(RAA)が占領軍のためにあてがった慰安所を下地とする戦後に売春施設が集積していた地域を指し、国家権力により周辺よりも早い段階で復興整備された「赤線地帯」と周辺とでは復興にタイムラグが生じており、その歪みが影響となってみられる。前期の研究を経て得られた影響としては、旧赤線地帯を系統ごとに分類することで見られた街区形状の特徴、商店街や銭湯などの周辺に付随する用途、横丁の発生、特定転換用途の集合が挙げられる。これらの影響が引き起こす問題は未だに問題提起されていないものであり、新たな設計手法の提案によって現代における旧赤線地帯の改善を目指す。
【道路班】
2020年度の道路班では、東京23区内に存在する行止街路の研究を行っている。
本来道路とは全体計画の下に新設、あるいは廃道化される。しかしながら、東京23区特有である大勢の地主の存在や、虫食いのように行われるミニ開発によって、全体計画を無視した道路が引かれ、その場しのぎのような街区が数多く形成されてしまっている。
自然発生的な行止街路が、街区を侵食することによっておこる影響を探り、行止街路のもつ空間特性を明らかにすることを研究の目的としている。
前期では主として全行止街路1507km分を数値による評価、選別を行った。より長く、より街区への侵食が大きい行止街路を抽出することによって、発生原因が不明、あるいは複雑な行止街路に注目することができた。また、道がなにで行止まっているかをみてみると、・特定用途・インフラ系・住居系・開発余地・地形の5つに大別することができる(詳細省略)。これらの行止街路の統計を取ってみてもそれぞれに特色があり、街路に張り付く建物にも違いが出ることが分かった。
後期に向けては行止街路の内情により注目し、前期中に見られた用途クラスターの発生、プライベートのはみ出し具合等をみていきたい。
【地形班】
地形班では、東京西部において、起伏のある土地が市街地化する際に、地形が都市空間に与える影響を明らかにすることを目的とし、研究を進めている。
既往研究となる「-地形が生み出す都市空間に関する研究- 東京山の手12 区を対象として -」2018、大坪 では、250mメッシュを用いて、都市空間と地形の関係性を定量的に分析した。
これを下敷きとして本研究では、都心と比較してより大規模な地形の改変が行われた郊外部に対象地域を拡大し、都市空間の定量的分析を行なっている。
前期のリサーチでは、極端に地形の起伏が激しい地域において、不整形街区や旗竿敷地の発生、高低差による地価の減少、隣接する市街地同士の用途的分断などの影響が見られた。
また市街地化された際に、部分的に斜面が残される場合について、その残り方には複数のパターンがあり、それらには立地的、年代的に傾向があることが明らかになった。
今後はこれらの影響を類型化し、地形による都市空間への影響が強い街区を選定した後、それらの特性を活かした設計提案を作成していく。
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